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聖魔ゲンブ01 (仮)

西暦2045年――
人類は知った。
天使と悪魔が、実在することを。
太古より地底に封じられた悪魔たちは、
地獄からの脱獄を企てた。
それを阻止せんとする天使たちは、
宇宙より地上に降り立った。
しかし、彼らは直接この地に立つことができない。
天使は、地上に降りれば穢れに染まり、
悪魔は、地上に出れば太陽に焼かれる。
ゆえに――
天使は「神騎」を送り込んだ。
神の騎士を。
悪魔は「魔紳騎」を送り込んだ。
魔の紳士を。
人と共に戦う、鋼の化身を。
そして、人間は選ばされた。
神に仕えるか、悪魔と契約するか――
代理戦争の、騎士として。
これは、その狭間に立つ少年の物語。
神騎でもなく、魔紳騎でもなく――
聖魔神騎を駆る者の物語。

七つの罪を背負い、世界を裁く者の物語。

第1話「地の底から」
●地の底の初陣

 暗がりの中。地の底は、静かだった。
 静寂は破られ、岩盤をくり抜いた地下基地の天井から、赤い警告灯がゆっくりと回転し、無機質なサイレンが空気を震わせている。
「エンジェル級聖神機、上層区画に侵入!」
 通信士の声がスピーカーを通して響く。
 操縦席のダイチは聞こえてるはずだが、無言のままだった。
 ダイチの喉の奥に言葉が溜まるが、外には出てこない。
 ダイチの前で、魔神機《ゲンブ》が起動する。
 人型の機体。だが天使でも悪魔でもない、どちらにも属さない輪郭。
 その不安定さが、操縦席のダイチの胸の奥と、奇妙な共鳴を起こしていた。
「ダイチ、出るぞ」
 指揮官の声。
 ダイチは小さく、うなずく。
 地下から上がる昇降機がゲンブを乗せて地上に上がっていく。
 初陣だった。


● ゲンブの暴走、揺れる心
 地上に上がったゲンブが空を見上げる。
 見上げた先にターゲットであるエンジェルが空に浮かんでいた。
 エンジェルは、白く、均整が取れていた。
 余計な装飾のない、正しさそのもののような機体。
 対するゲンブは、挙動が荒い。
 推進器が悲鳴を上げ、腕部が意図せず振り切られる。
 ダイチの意思は空回りし、ゲンブの制御が上手くいかない。
「落ち着け……!」
 誰に言ったのか、ダイチ自身にもわからなかった。
 敵は迷いなく迫る。
 ダイチは恐怖にかられ、ゲンブの銃を乱射する。
 訓練では命中していたはずなのに、当たらない。
 エンジェルは、光の翼をはためかせ、飛び、上昇したと思えば、急降下する。
 エンジェルの光の刃が閃き、ゲンブの装甲が裂けた。
――違う。
――こんなはずじゃない。
 ダイチの胸に、焦りと苛立ちが渦巻く。
 それに反応するように、ゲンブの出力が跳ね上がった。
 制御不能。
 力だけが溢れ、弾は的のない空間ばかり飛んでいく。
 狙いは定まらない。
「ダイチ、引け!」
通信が飛ぶ。
だが彼の指は、操縦桿から離れなかった。
――僕だって……。
言葉にならない思いが、喉の奥で詰まる。

-----------------------暴走の描写

転 ―― 偶然という名の突破

追い詰められ、逃げ場を失った瞬間。
エンジェル級の聖神機が、わずかに高度を調整した。
その一瞬のズレの動きとダイチのイメージとかさなった。
ダイチは、反射的にトリガーを引いた。
暴走するゲンブの腕が振り抜かれ、吸い込まれるようにエンジェルの装甲の継ぎ目にクリティカルヒットする。
光が乱れた。
エンジェル級の聖神機の動きが止まり、次の瞬間、機体は崩れ落ちる。
勝った――
そう認識するまで、数秒かかった。
「……倒した?」
自分の声が、やけに遠く聞こえた。
歓声はない。
基地に広がるのは、困惑と沈黙だった。
ダイチは勝利の実感を持てないまま、荒い息を整えようとした。
そのときだった。

結 ―― 空から降りてきた“謙虚”

空間が、圧し潰されるように歪んだ。
新たな聖神機が、ゆっくりと降下してくる。
白を基調としながらも、先ほどの機体とは明らかに違う威圧感。
操縦席の通信が開く。
「初陣にしては、悪くないね」
穏やかで、柔らかい声。
「僕はソラ。天使側の――ただの操縦者だよ」
次の瞬間。
ソラの聖神機が、信じられない速度で間合いに入った。
反応できなかった。
一撃。
二撃。
ゲンブは宙を舞い、壁に叩きつけられる。
――終わった。
そう思ったとき、攻撃は止んだ。
「これが噂の……地の底の秘密兵器、ゲンブか」
嘲るでもなく、淡々とした声音。
「大したことないな」
ソラの聖神機の攻撃はとまった。
ソラはとどめをさすことなく、撤退するように、ゆっくりと距離を取る。
ゲンブは、撃墜されたかに見えた。
だが、生きている。
――手加減……?
その事実に気づいた瞬間、ダイチの胸に、熱いものが込み上げた。
「ひ、卑怯だぞ……」
声が震える。
「あいつに……あいつにやられなかったら……」
拳を握りしめる。
「僕だって……」
 ダイチのこみ上げる言葉は、最後まで、言えなかった。
 空に消えていくソラの聖神機を、ダイチはただ、見上げていた。
 地の底から、何かが確かに、動き始めた夜だった。
操縦席の照明が落ち、暗闇が満ちる。
機体の軋む音だけが、低く響いていた。
ダイチは俯いたまま、動かなかった。
――負けた。
いや、生き残っただけだ。
それが、いちばん悔しかった。

「……弱いな」
不意に、声がした。
通信ではない。
基地のスピーカーでもない。
頭の内側から、直接響く声。
ダイチは息を止めた。
「力を持ちながら、それを恐れる。
それが、お前のやり方か?」
「……だ、誰だ……」
問いかけは、震えていた。
声は、静かに笑った。
「名など、今はどうでもいい。
だが――お前は、気づいているはずだ」
 視界の端に、影が揺れる。
 角とも翼ともつかない、歪んだ輪郭。
「天使も、悪魔も、お前を使う。
だが本当は――」
声が、囁く。
「使われているのは、あいつらの方だ」
ダイチの胸が、強く脈打つ。
「……違う……僕は……」
「傲慢だな」
 断定だった。
 だが、責める響きはない。
「それでいい。
傲慢でなければ、神にはなれない」
操縦席の闇が、ゆっくりと晴れる。
「選べ。
 押し殺すか、認めるか」
「お前が“特別”であることを」
 声は、そこで途切れた。
 ダイチは、荒い呼吸の中で、呟く。
「……僕だって……」
 まだ、続きは言えない。
 だがその夜、
 ゲンブの中で、何かが目を覚ました。

高度を上げながら、ソラは静かに息を吐いた。
「……やっぱり、いた」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
操縦桿を握る手は、微動だにしない。
完璧な制御。完璧な姿勢。
だが、胸の奥では、別の感情が渦を巻いていた。
――暴走。
――未熟。
――それなのに、あの力。
「ずるいな……」
ソラは、苦笑する。
「君は、何も知らないまま、そこにいる」
自分は、違う。
努力してきた。祈ってきた。選ばれるために。
なのに――
「あの機体……あの少年……」
一瞬、指に力が入る。
本気で撃てば、落とせた。
だが、それはしなかった。
「……まだだ」
自分に言い聞かせるように。
「神の名において、謙虚であれ」
その言葉が、
自分を縛る鎖になっていることに、
ソラはまだ、気づいていない。
雲の向こうで、天界の光が瞬いた。

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